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"Sleep low"は効果があるのか?メタ解析論文を読む

友人と話している中でSleep low法についての話があり、興味が出たので実際に調べてみることにしました。

この記事で伝えたいこと

大雑把に言えば糖質制限に持久系競技の競技力向上効果はない。

一縷の希望としてSleep low法には効果があるのかもしれないが、それも脂質代謝の向上よりも他のメカニズムによるもので、脂質代謝の向上を目的として糖質制限を行う理由はないと考えられる。

前提知識

■ 人間の体には有酸素運動のエネルギーを供給する系が大きく分けて2種類あり、糖質代謝と脂質代謝である。脂質代謝は糖質代謝に比べてエネルギーを供給する速度が遅く、運動強度が上がってくるにつれて糖質代謝の割合が高くなってくる

■ しかし糖質代謝を回すための原料となる糖質は人間の体に2000 kcal程度しか貯蓄されておらず限界がある。このため、2-3時間を超える競技のスポーツ選手は脂質代謝の利用を促進して、糖質をなるべく温存したい。このために日々のトレーニングに取り組んでいる

■ 最近、食事方をハックすることでこの脂質代謝を促進できないか?という取り組みが盛んである。その文脈の中で糖質制限が盛り上がってきており、特に1日のある時間の中で糖質制限を行い、全体での糖質摂取量は変えない方法で効果を得ようとしている人々がいる。 (以下、糖質制限と注釈なく書いた際には、この方法を指すこととする)

■ この方法の中ではsleep low法が有名
→ 高強度トレーニングで糖質を消費し、その後糖質の低い食事を摂取して睡眠、そして朝練という流れ。ただし、他にも体内の糖質量を減らした状態でトレーニングする実験的方法はいくつかあるようで、論文の前提セクションを参照

■ で、本当に効果があるの?論文を探してみましょう

読んだ論文

jissn.biomedcentral.com

著者はuniversity of copenhagenのDepartment of Nutrition, Exercise and Sportsに居らっしゃる研究者であり、雑誌のIF: 5.07; Q1とそれなりに信頼がおける。

論文の形式としてはもっともエビデンスレベルの高いとされるメタ解析であり、意思決定の参考になる。

論文内容

前提

- Pilegaardらの研究により、体の糖質が低い状態でトレーニングを行うと、細胞はミトコンドリアの量を増やそうとするのではないか?と考えられている。続く研究では、マチュアでもプロでもこの作用が確認されている

- しかし、細胞にてミトコンドリア量を増やそうとする回路が動いていることと、実際に持久パフォーマンスが向上することは別である

- そこで、著者らは複数の文献を参照してメタ解析をおこなった

- なお、体の糖質を制限した状態でトレーニングに取り組む方法には、いくつかあり、下記参照されたい

グリコーゲンを消耗するような練習→低糖質食→練習

"Twice a day training" 上記の流れを1日の中で実施する方法

"Sleep low" 低糖質食とトレーニングの間に睡眠、その後朝練

その他

"Fasted training" 飯食わないで持久トレーニン

"Recovery low" グリコーゲンを消耗し、そのリカバリーを低糖質食で行うというもの

(私見) 上記の中でSleep low法は長時間体が低糖質の状態に置かれるので、体に対する効果は高いと推測される

方法

省略

VO2 maxが >60 (男性) >55 (女性) と競技力がある人々を解析対象としている

(豆) periodized nutritionやcarbohydrate periodizationなどの用語を用いて検索するとより論文に辿り着きやすい

(微細) sleep lowを行っている回数/週が3回以上の論文のみを解析している

(微細) アウトカムはtime to exhaustionやtime trialで評価されている。基本的にpreloadと呼ばれる消耗フェーズがあり、その後のタイムトライアルで評価するようである。これならば持久力の評価と直感的には納得できる

結果

- いろいろやって9件の論文をメタ解析することになった

- 3件がtwice a day、3件がsleep low、2件が複数方法の混合、1件がfasted trainingの方法で糖質を制限していた

- これらをメタ解析した結果、持久パフォーマンスの向上は観察されなかった。

考察

- figure 2を見ると分かるのだが、糖質制限を行い持久力パフォーマンスの向上に至っているのはSleep low法のみである

(私見) twice a day法やRecovery low法を採用する根拠は乏しい

- sleep low法にて効果が出ている研究も、グリコーゲン超回復や体重減少の影響を補正出来ていないため、Sleep low法による脂質代謝の亢進によって効果が出たとは言い難い状況である。1週間で効果が出ているので脂質代謝の促進以外の理由によりパフォーマンス向上が得られたと考えるべきだろう。

- twice a day法じゃそもそも筋肉のグリコーゲンが適応を促すようなレベルまで下がり切っていない。カロリー制限も必要となってくるかもしれない

- 1週間に20-30時間も練習するようなアスリートでは糖質制限をしなくても、既に糖質制限の刺激に晒されている可能性がある

- 糖質制限を行うとレーニングの強度や量が下がる危険性がある。

- メタ解析で使用した論文は介入期間が1-4週と短く、また、アウトカムの評価も2時間以内と短いため、これよりも長い介入期間やウルトラマラソンのような競技ではまた違う結果となる可能性もある

感想

上記論文より学べることは、

糖質制限の方法について特に意識することなく解析すると糖質制限には持久パフォーマンスの向上効果がない

方法について意識し考えると、

■ 各研究にて一致してtwice a day法やRecovery low法は効果がないと分かっているので、これを採用する根拠は乏しい

糖質制限法の中でSleep low法のみは持久パフォーマンス向上効果があるかもしれないが、脂質代謝の促進というよりはグリコーゲン超回復や体重減少によるものだろう。

なので、脂質代謝の向上を目的とし、長期にわたってSleep low法による糖質制限を行う理由はないように思われます。

(私見) 脂質代謝が~などと難しいことを言わず、大人しくグリコーゲン超回復に期待して、介入期間を1~2週間程度、3回/週で納めるのであれば効果があるのかもしれません。ただし、メタ解析の結果として糖質制限には効果がない、と分かってしまっているので、お守り程度の位置づけと考えるのが良さそう。

活用法としては、狙っているレースではないが、お楽しみ程度に出る予定のレースのパフォーマンスを上げたい場合。ポイント練後の低糖質食、睡眠、その後の朝練とすることでグリコーゲン超回復を誘導できるかもしれません。